メネストレル主催 若手研究セミナー《中世学のネットワークとツール》 国際シンポジウム《中世における文化交流―対話から文化の生成へ―》
趣旨
1980年代に文化史が中世研究の最もダイナミックな分野の一つとなって以来、「文化交流」は様々な方法で幾度も論じられてきた。そこで2017年に奈良の大和文華館で開催されるMénestrel(メネストレル)のシンポジウムでは、主題の大きさのみならず、研究者の専門や教育を受けた国の知的背景に応じてアプローチが著しく多様であるがゆえに未だ議論が尽くされたとは言い難いこの問題を考察することを提案したい。日本は他の東アジアの国々との豊かな交流の中で多くの異文化を独自の方法で取り入れ、我が物としてきた。そのため本シンポジウムはこの国を極東の中世文化史に位置づけ、西欧との比較を試みるものでもある。
学際的・領域横断的研究の発展や歴史の概念そのものの刷新に乗じて、近年多くの研究が接触、伝播、紛争、移動といった交流の背景やその構造を明らかにしている。かかる研究動向に反し、交流の相互性については殆ど取り組まれていない。「文化交流」という表現は文化の「移動」や「影響」といった語に対応するものでは断じてなく、相互作用を前提としている。各々が「発信者」であり能動的で創造性に富む「受容者」であれば、交流とは単にモノや概念、もしくは文化の特性が一方から他方へ移動することではあり得ないのだ。
文化交流の様態も画一的では無論なく、モノや場のかたち、意味、機能や価値によって異なる。交流過程で生成された考古学、歴史、文学、図像資料がその証左であり、本シンポジウムではこれを考察の中心に据えたい。これらの資料を介してこそ、中世学者は文化領域における交流の相互性や極めて多様な結果を看取し得るのである。交流の意図と、その結果の隔たりを考察することが肝要なのだ。交流は時として一方が他方を同化せしめるほどに異文化間の距離を縮めたり、あるいは逆に各々の差異や特質を交流以前よりも明確にし、かかる過程で新しい文化を誕生させたりする。しかし民族間の交流に関する歴史学の言説では文化間の境界が前提条件として設定されることが多かったため、各文化がいかに生成され、何をもって各々を識別するかについては殆ど論じられてこなかった。その点から、文化交流と比較研究という問題にたいするそれぞれのアプローチが潜在的に相補的であることは明らかである。
そこで本シンポジウムでは文化間にみる相互作用の具体例を介して、近年の研究で中世学者が使用している「他者(altérité)」、「アイデンティティー(identité)」、「混血(métissage)」、「交雑(hybridation)」、さらに「クレオール化(créotisation)」といった概念を再考する機会としたい。相互の関係性を踏まえて「文化のパートナー」とのコミュニケーションの様態を明らかにすることで、「文化間の対話」、「文化間の歩み寄り」、もしくは「文化の成り立ち」そのものについて考察しながらも、それらに関する月並みな言説とは逸したものとなろう。
また、ヨーロッパと日本の中世世界の比較研究を対象とするパネルディスカッションで欧州-地中海世界と東アジア間比較の可能性を問うことにより、双方における文化交流についての個別発表を関連づけることにもなろう。
開催概要
- 会期
- 2017年11月17日(金) ~ 11月19日(日)
- 開催地
- 近畿 > 奈良県
- 会場
- 大和文華館[アクセス]
〒631-0034 奈良県奈良市学園南1-11-6
近鉄奈良線「学園前」駅下車徒歩約7分 - メインテーマ
- 日本を極東の中世文化史に位置づけ、西欧との比較を試みる
- 公式サイト
- http://www.menestrel.fr/spip.php?rubrique1877&lang=fr&art=ja#4864
- 主催
- メネストレル(※中世学者の国際的な組織です)
- 協賛・後援等
- 【後援】日本フランス語フランス文学会、ネーデルラント美術研究会、西洋中世学会、奈良県
【協賛】公益財団法人西洋美術振興財団
【助成】吉野石膏美術振興財団、鹿島美術財団、笹川日仏財団、村田学術財団、野村財団
【協力】大和文華館、国際叙事詩学会日本支部、国際アーサー王学会日本支部、関西中世史研究会、奈良県ビジターズビューロー - 備考
- ※事前登録が必要です。
- ダウンロード
プログラム 日程
2017年11月17日(金)
9:00 東大寺見学
11:00 大和文華館特別企画展≪書の美術-経典・古筆切・手紙-≫
(案内:古川攝一学芸員)
12:00 昼食(於:祥楽)
若手研究セミナー《中世学のネットワークとツール》
(要事前登録)
※無料でご参加いただけますが、大和文華館への入場料(620円)が必要となります。なお、事前登録は9月30日から開始し、定員150名に達し次第、締め切らせて頂きます。全発表言語は英語で、質疑応答のみ通訳があります。
13:30 Presentation of the Ménestrel Network and Website
Christine DUCOURTIEUX, パリ西洋中世史研究所-フランス国立パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学 研究技術員
Isabelle DRAELANTS,フランス国立文献史研究所‐フランス国立科学研究センター 研究ディレクター
13:50 Presentation of the “Medievapsts on the Map” Section of the Ménestrel Website
Hanno WIJSMAN, フランス国立文献史研究所‐フランス国立科学研究センター 教育技術員
14:00 Presentation of the “Thematic Repertory” Section of the Ménestrel Website: the Example of the “Food” Page
Aude MAIREY, パリ西洋中世史研究所‐フランス国立科学研究センター 研究ディレクター
Alban Gautier, カーン・ノルマンディー大学‐フランス大学学院 教授
14:15 Presentation of the Ménestrel Series “On the Use of…in Medieval History”
Benoît GREVIN, パリ西洋中世史研究所‐フランス国立科学研究センター 研究ディレクター
14:30 Presentation of the “Primary Sources and Resources” Section of the Ménestrel Website
Anne-Sophie TRAINEAU-DUROZOY, ポワチエ大学図書館 司書
14:45 質疑応答
通訳:井野崎千代子, 大阪産業大学 兼任講師
14:55 休憩
15:10 Current Developments in Paleography: From the History of Scripts to a Global History of Writing Systems ?
Marc SMITH, フランス国立古文書学校 教授‐国立高等研究実習院 教育ディレクター
15:30 Digital Palaeography: From Technical to Epistemological Challenges (New Tools and New Research Questions)
Dominique STUTZMANN, フランス国立文献史研究所‐フランス国立科学研究センター 研究員
15:50 Web Tools and Databases in the Field of the History of Medieval Manuscripts and Texts: Some Existing Instruments and New Perspectives
Hanno WIJSMAN, フランス国立文献史研究所‐フランス国立科学研究センター 教育技術員
16:10 Presentation of the SHMESP (Society of Medieval Historians in French Pubpc Higher Education)
Aude MAIREY, パリ西洋中世史研究所‐フランス国立科学研究センター 研究ディレクター
16:30 Presentation of the SLLMOO (Society of Medieval Language and pterature in Langue d’Oc and Langue d’Oïl)
Joëlle DUCOS, フランス国立パリ第4ソルボンヌ大学 教授
16:50 質疑応答
通訳:井野崎千代子, 大阪産業大学 兼任講師
17:00 閉会
19:00 懇親会(於:KOTOWA)
※発表者、司会者、通訳・翻訳者・ポスター制作者のみ
2017年11月18日(土)
国際シンポジウム《中世における文化交流―対話から文化の生成へ―》
(要事前登録)
※無料で御参加いただけますが、大和文華館への入場料(620円)が必要です。なお、事前登録は9月30日から開始し、定員150名に達し次第、締め切らせて頂きます。発表原稿の翻訳入手方法につきましては、参加者に別途ご案内させて頂きます。
10:00 受付
10:30 大和文華館の紹介(日本語)
古川攝一, 大和文華館 学芸員
(翻訳:有田豊, 立命館大学 嘱託講師)
10:45 イントロダクション(仏語)
Christine DUCOURTIEUX, パリ西洋中世史研究所‐フランス国立パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学 研究技術員
(翻訳:有田豊, 立命館大学 嘱託講師)
11:00 研究発表1:文化交流としての宗教活動
(司会:小澤実, 立教大学 准教授)
11:05 南宋宮廷コレクションと仏教世界の再生―士大夫社会の変容―(日本語)
塚本麿充, 東洋文化研究所‐東京大学 准教授
(翻訳:田辺めぐみ, 帝塚山学院大学 兼任講師 & Rémy CORDONNIER, CNRS-リール第3大学 助教)
11:35 文化交流としてのキリスト教への改宗(英語)
Alban GAUTIER, カーン・ノルマンディ大学-フランス大学学院 教授
(翻訳:成川岳大, 立教大学 兼任講師)
12:05 質疑応答
12:20 昼食(於:祥楽)
14:00 研究発表2:異文化へのまなざし
(司会:蜷川順子, 関西大学 教授)
14:05 中世日本人の外国人観(英語)
伊川健二, 早稲田大学 准教授
(翻訳:伊川健二)
14:35 窓口としての図書館―ブルゴーニュ公と東方という魅惑―(英語)
Hanno WIJSMAN, フランス国立文献史研究所‐フランス国立科学研究センター 教育技術員
(翻訳:佐藤龍一郎, 東京大学 博士課程)
15:05 質疑応答
15:20 休憩
15:35 研究発表3:文学にみる文化交流のかたち
(司会:黒岩卓, 東北大学 准教授)
15:40 13-14世紀の写本に見るイタリア=フランス語―人工言語、混成言語、あるいは接触言語?―(仏語)
Anne ROCHEBOUET, ヴェルサイユ・サンカンタン・アン・イヴリーヌ大学 准教授
(翻訳:島崎利夫, 東京大学 博士課程)
16:10 英仏の和平を求めて―ジョン・ガワーとフィリップ・ド・メジエールの教訓的書簡―(英語)
小林宜子, 東京大学 教授
(翻訳:小林宜子)
16:40 質疑応答
17:00 閉会
19:00 懇親会
(於:奈良国立博物館内、葉風泰夢)
※なら仏像館は20時まで開館しておりますので、懇親会開始時間までご利用できます。なお、懇親会(参加費5,000円)への参加受付は、10月末日までとさせて頂きます。奈良の地酒も楽しめますので、ふるってご参加ください。
2017年11月19日(日)
国際シンポジウム《中世における文化交流―対話から文化の生成へ―》
(要事前登録)
※無料で御参加いただけますが、大和文華館への入場料(620円)が必要です。なお、事前登録は9月30日から開始し、定員150名に達し次第、締め切らせて頂きます。発表原稿の翻訳入手方法につきましては、参加者に別途ご案内させて頂きます。
10:00 パネル:西欧中世と日本中世比較研究の可能性
10:00 イントロダクション
Benoît GREVIN, パリ西洋中世史研究所‐フランス国立科学研究センター 研究ディレクター
10:15 西欧-日本の交差するまなざし ―君主と戦士貴族の印章―(仏語)
Ambre VILAIN, フランス国立ナント大学 教育研究補助員
(翻訳:頼順子, 佛教大学 兼任講師)
10:40 家紋とアルモワリ ―比較標章学の一例―(仏語)
Laurent HABLOT, フランス国立高等研究実習院 教育ディレクター
(翻訳:江川温, 大阪大学 名誉教授)
11:05 休憩
11:20 一揆/同盟 ―中世日本とヨーロッパにおける結合の言語と表象―(英語)
Serena FERENTE, ロンドン大学キングスカレッジ 専任講師
佐藤公美, 甲南大学 教授
(翻訳:佐藤公美)
11:50 比較史における宗教と戦争 ―「長い中世」の日本と西欧―(英語)
Phipppe BUC, ウィーン大学 教授
(翻訳:斉藤恵太, 京都教育大学 専任講師)
12:20 『ローランの歌と平家物語』―比較研究の可能性について―(仏語)
Benoît GREVIN, パリ西洋中世史研究所‐フランス国立科学研究センター
黒岩卓, 東北大学
(翻訳:黒岩卓)
12:50 質疑応答
13:00 昼食(於:祥楽)
14:30 研究発表4:比較研究のさきに
(司会:稲賀繁美, 国立国際日本文化研究センター 副所長)
14:35 マンドレイクの採取法―中世ヨーロッパ・中東・中国における知識の往還―(英語)
山中由里子, 国立民族学博物館 准教授
(翻訳:山中由里子)
15:05 中世東洋における教訓物語―ThEMA(中世教訓逸話集シソーラス)データベースにおける索引のための批判的アプローチ要素―(仏語)
Jacques BERLIOZE, 社会科学高等研究院‐フランス国立科学研究センター 研究ディレクター
(翻訳:室崎知也, 独立研究者)
15:35 日欧の中世軍事文化の比較史(仏語)
堀越宏一, 早稲田大学 教授
(翻訳:堀越宏一)
16:05 休憩
16:20 質疑応答
16:45 結論
Isabelle DRAELANTS, フランス国立文献史研究所‐フランス国立科学研究センター
17:00 閉会