【中止決定】国際研究集会《東西中世を解き放つ――「中世における文化交流」から中世学の未来へ》

国際研究集会《東西中世を解き放つー「中世における文化交流」から中世学の未来へ》

2017年に開催した国際シンポジウム《中世における文化交流――対話から文化の生成へ》の成果論文集『東西中世のさまざまな地平――フランスと日本の交差するまなざし』の刊行を記念して、「中世における文化交流」を中世学の更なる発展につなげるため、国際研究集会を開催いたします。

※運営資金が不足しているため、クラウドファウンディングサービスを利用してご支援を募っております。(プロジェクトページ) →2020年2月28日(金)をもって募集を終了いたしました。

※2020年3月8日(日)に予定しておりました国際研究集会《東西中世を解き放つ》は、誠に残念ながら開催中止を決定いたしました

開催概要

会期
2020年3月8日(日) 【中止決定】
開催地
関東 > 東京都
会場
日仏会館[アクセス
〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿3-9-25
公式サイト
主催
メネストレル日本部門
協賛・後援等
【共催】日仏会館(予定)
【後援】美術史学会ほか
【協賛】公益財団法人西洋美術振興財団
【協力】知泉書館、国際叙事詩学会日本支部、ネーデルラント美術研究会
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事業目的

 パリに本拠をおく中世研究者の国際的な組織Ménestrel(www.menestrel.fr)は、中世関連のポータルサイトを運営すると共に、欧州の高等教育研究機関にて年に二回、総会と研究集会を開催してきた。それらは長くフランスにおいて実施されてきたが、2014年秋からはポーランド国立図書館に続いて、リスボン新大学(2016年1月)やリエージュ大学(2016年10月)で開催。2017年11月には、奈良県の大和文華館にて、若手研究セミナ―《中世学のネットワークとツール》と、国際シンポジウム《中世における文化交流――対話から文化の生成へ》を主催する次第となった。

 この国際シンポジウムの成果は、筆者を含む5名の多国籍(フランス、イギリス、オランダ、日本)・多分野(古書体学、歴史学、美術史学)の編集チームのもと、欧文版と邦語版が準備され、ソルボンヌ大学出版会と知泉書館からそれぞれ刊行される。各論考は、寄稿者によって大幅に修正・加筆されているほか、シンポジウム発表者以外との共著も含まれるため、従来のシンポジウム議事録とは異なるものである。また、美術史・歴史・文学・比較文学等の分野で国際的に活躍している5か国19名の研究者による論文集という点でも前例をみない。→続きを読む

日欧の研究者による共著、そして印章や紋章の日欧比較の可能性を問うなど、中世学の新たなあり方を提案する論考を含む点でも画期的である。当該刊行物の日本とフランスでの出版は、日本でヨーロッパ中世を研究する者や、欧州の日本学者のみならず、両文化圏で自国文化の研究に従事する者にも新たな視座を提示し得る点で、非常に有益なものである。それらはまた、国際的な学術交流を促進させるものともなろう。

 以上の成果が期待できる一方、当該の事業にて達成できなかった点も認めざるを得ない。まず第一に、本来の意味での「文化交流」という主題を十分に扱えなかったことである。国際シンポジウムの主題を「文化交流」としたのは、異なる文化・学術背景を持つ者がアプローチしやすいものであったためでもあるが、それ以上に現在の国際情勢には一見「無関係(無用)」と思われる学術的な視座や見解、そして交流がもたらし得るものの意義を再確認することを願ったためでもあった。無論、「文化交流」という主題は今日に至るまで様々な機会に論じられてきた。しかし、実際に焦点があてられたのは「交流」の前段階となる「接触」や「衝突」、あるいはその過程となる文化の「移転」や「影響」「受容」などに留まり、異文化間の「相互交流(互恵関係)」は看過されるか、傍流をなすにすぎなかったのである。

 従来の例に違わず、当該の事業においても「中世における文化交流」の双方向的な側面が十分に論じられなかったのは、国際シンポジウムを日本で開催する意義をより明確化するために日欧比較の視座を導入したことによって、「中世における文化交流」から「中世研究を介した異文化・異分野交流」へと関心が移行したためでもあるが、かかる事態は人文科学研究の現代社会における問題を示唆しているようにも思われる。というのも細分化された分野や時代の枠組みの中で文化交流の相互性など問えるはずもないことを踏まえれば、現在までの文化交流関連の研究集会で、この主題が真に論じられることがなかったのは、現代における人文科学研究者の多くに、本来の意味における「交流」というテーマを論じるために不可欠な、大きなスパンで自身の課題に取り組む意欲と力が不足しているとも捉え得るのである。そして、それは人文科学研究の存在意義にたいする懐疑が益々高まっている現状と無関係ではあるまい。

 第二の課題として残されているのは、日本における今後の国際事業のありかたである。まず、言語の問題があげられるだろう。英語が共通言語として認識されている自然科学とは異なり、人文科学では言語と専門分野との結びつきは依然として強い。しかしフランス語で事業を実施する場合に、翻訳や通訳の有無の如何を問わず、参加者が著しく限定されることが多いのは周知の事実である。各専門分野に通じたフランス語の翻訳者・通訳を見つけるのも容易ではない。そのため、上記の事業では幾人かのフランス人研究者に発表原稿の執筆を英語でお願いすることとなった。しかし問題は言語そのものに留まらず、日本学を専門としないフランス人研究者が日欧比較研究に挑んだ成果に対応できる日本人研究者の不在や、翻訳者の立ち位置の難しさなど、研究者間で今一度共有すべき諸問題を確認せざるを得なかった。

 かかる問題は、日本の学術界の「国際化」における重要な課題を示しているように思われる。「国際日本学」が広く認知されている昨今、日本関連の研究に勤しむ外国人研究者や学生を擁する日本の高等教育研究機関は少なくない。日本や海外で実施される日本学研究者の集会も、飛躍的に増加している。しかしながら、上記のような日本学を専門とせずして自らの専門分野から言わば派生的に日本を考察対象に含める海外の研究者が、日本学研究者より寧ろ多数派であることは、十分認識されていないように思われる。前者の関心事が、日本では学術研究の対象とされていないものに及んでいる場合が多いという事実も看過されがちである。フランスにおける日本学に対する関心の高まりに応じて、国内におけるフランス研究者が果たすべき役割が益々必要とされてきているにも関わらず、その事実が共有されていないことも問題視すべきだろう。

 日本の人文科学研究のグローバルな展開を望むうえで、以上の問題は様々な事業を介して徐々に改善してゆくしかないが、その際に日本の西洋学研究者が果たすべき役割は少なくないように思われる。言語の問題のみならず、日本文化を基盤としながら西洋学研究に従事する者には、異なる文化を架橋する視座と技術の鍛錬が常に求められているからである。しかし、それらを有効に活用するためには、日本と海外の研究者のみならず、日本国内の西洋学研究者と日本学研究者との円滑なコミュニケーションと確たる連携が欠かせない。

 その具体的な取り組みを提示することが、本事業の目的に他ならない。異なる文化(フランス、ベルギー、オランダ、日本)、分野(日本・西洋美術史、西洋史、比較文学、フランス文学・文献学、文化史、科学・思想史)、世代の研究者が集い、「中世の文化交流」から「現代における国際的な学術交流」に論点を敷衍するなかで、中世学の未来を様々な視座から検討することは、異分野・異文化間の建設的な対話を可能とすると同時に、新たな化学反応が期待できる。また、研究成果のアウトプット言語や翻訳に関する問題を論議することで、日本の学術界の真の国際化に寄与することともなろう。

事業概要

 国際研究集会は4部よりなる。まず、午前の第1部≪中世写本の時空≫では、フランスから来日する3名の中世学者に、様々な史実・文化・知識が集積された中世写本の贈与、再構築、伝播にかんする研究成果を披露して頂く。まず、中世末期のブルゴーニュ公国における写本文化を専門とし、写本やテキストの伝播史にかんするデータベースBibale(http://bibale.irht.cnrs.fr/)を主宰しているハンノ・ウェイスマン氏には、政治・外交戦略として用いられた中世末期のフランス王家、イギリス王家、ブルゴーニュ家の豪華写本にかんする研究成果をご報告いただく。西洋中世の図書館史についての研究に長く従事しているトマ・ファルマーニュ氏には、様々な機関に所蔵されていた中世写本を再構築する多様な方法を披露して頂く。そして中世の文化・科学・思想史を専門とし、中世最大の百科事典『大いなる鑑』を編纂したヴァンサン・ド・ボーヴェの研究プロジェクト(http://atelier-vincent-de-beauvais.irht.cnrs.fr/historique-de-latelier)の責任者を務めているイザベル・ドラーラーンツ氏には、〈驚異〉にかんする画期的な研究成果を様々なかたちで発表されている山中由里子氏と共に、古代から中世にいたるまでの東西の図像やテキストからマンドラゴラの採取法の伝播を辿って頂く。→続きを読む

 西洋中世を研究する者にとって不可欠である写本は、昨今著しく電子化が進められ、日本でも様々な分野で優れた研究成果が重ねられてはいるものの、写本やそれを介した知識の広範な伝播や、散逸した写本の再構築といった研究を実施する困難に変わりはない。それらの研究に従事する専門家の来日により、日本の中世研究者との建設的な関係が構築されんことを願う。イザベル・ドラエラン氏と山中由里子氏の共同発表は、前述の国際シンポジウムを契機として実現されることになったため、様々な「境界」を超えた共同研究の具体的な成果を示して頂けることになろう。

 第2部≪「中世における文化交流」再考≫では、上記の国際シンポジウム«中世における文化交流――対話から文化の生成へ»と、その成果論文集では扱いきれなかった本来の意味での「文化交流」が、「中世」という人為的でありながらも多義的な枠組みの中で論じることが果たして可能であったのか否かを検討する。イントロダクションでは、上記の事業で喚起された問題を踏まえた上で、「文化交流」という主題が孕む様々な問題を開示。島尾新氏と小澤実氏には、それぞれの専門分野である日本美術史、西洋史において、本来の意味での「文化交流」がどのように扱われているのか、またその展望をご報告いただく。

 第3部≪国際日本学を拓く――日仏翻訳の諸問題≫では、「中世における文化交流」という主題を「現代における国際的な学術交流」に敷衍し、そのツールとしての言語に関して論じる。本事業の開催会場であり、共催を申請している日仏会館が、長年日本とフランスの学術交流の場として非常に重要な役割を担ってきた事実に鑑み、2017年に開催された上記国際シンポジウムや、その成果論文集の日仏翻訳作業に従事して頂いたフランス文献学研究者の島崎利夫氏と、西洋史を専門とする室崎友也氏に、自らの経験に基づいて具体例を引きながら、問題点とその対処法を明示することをお願いしている。いっぽう当該論文集に、『ローランの歌』と『平家物語』の比較研究に関する非常に興味深い共著を寄せて頂いたフランス文学研究者の黒岩卓氏には、国際日本学における日本の外国文学・外国語研究者のあり方に関して報告して頂く。以上の報告で提起される問題や提案をもとに、聴衆や他の発表者との活発な意見交換を促し、国際的に学術活動を展開するうえでの留意点や今後改善すべき事項などをとりまとめることを、「中世における文化交流」の一連の事業に、顧問・監査・編者・訳者として関わって頂いた江川温氏にお願いしている。

 そして第4部≪文化と分野の交差点から生まれ出づるもの≫では、日仏間の相互交流が顕在化している近現代の事例を西洋美術史家の藤原貞朗氏に報告して頂くとともに、中世学者ではないものの、様々な学術活動を国際的に展開しておられる比較文化がご専門の稲賀繁美氏に中世学の未来への提言を本事業の総括として行って頂くことにより、当該企画が参加者それぞれの発展的な未来につながることを期待している。

プログラム 内容

9:00~ 受付
9:30~ 開会挨拶(江川温,大阪大学名誉教授/佛教大学教授)

第一部 中世写本の時空

9:40~ 政治的・外交的関係の証としての中世末期の写本
(Hanno Wijsman,フランス国立文献史研究所-フランス国立科学研究センター研究技術補佐員)

10:10~ 西欧中世の図書館:場所,実践,記憶
(Thomas Falmagne,ルクセンブルク国立図書館研究員)

10:50~質疑応答

11:05~ 犬を用いたマンドラゴラの採取法?――古代・中世ヨーロッパ,中東,中国におけるモチーフの往還
第一部:ヨーロッパの写本におけるマンドレイク―テクストと図像の相関性
(Isabelle Draelants,フランス国立文献史研究所-フランス国立科学研究センター研究ディレクター)
第二部:中東写本におけるマンドレイク描写
(山中由里子,国立民族学博物館教授)

11:55~ 質疑応答

12:15~ 昼食

第二部 「中世における文化交流」再考

13:30~ イントロダクション:「中世における文化交流」の多様性と多義性から見えてくるもの
(田邉めぐみ,帝塚山学院大学兼任講師)

13:50~ 中世における相互交流は可能か? 日本美術史の場合
(島尾新,学習院大学教授)

14:30~ 中世における文化交流は可能か?中世アイスランドにおけるビザンツ帝国の記憶再考
(小澤実,立教大学教授)

15:10~ 質疑応答

15:30~ 休憩

第三部 国際日本学を拓く――日仏翻訳の諸問題

15:45~

司会:江川溫(佛教大学)

報告1: 日本文化を翻訳する――大和文華館特別企画展«書の美術――経典・古筆切・手紙»の展示作品解説書の事例から
(島崎利夫,東京大学博士課程)

報告2: 日本学研究成果の日仏翻訳における問題
(室崎知也,独立研究者)

報告3: アウトプット言語の選択と,翻訳をめぐる諸問題――日本学の国際化と日本の外国文学・外国語研究者
(黒岩卓,東北大学准教授)

17:10~ 休憩

第四部 文化と分野の交差点から生まれ出づるもの

17:30~ 「幻想の中世」と近代の日仏交流――中世学と東洋学のネットワーク
(藤原貞朗,茨城大学教授)

18:10~ 質疑応答

18:30~ 総括:西洋中世学の未来への提言
(稲賀繁美,国際日本文化研究センター教授)

19:00~懇親会

刊行物のご案内

東西中世のさまざまな地平--フランスと日本の交差するまなざし

2017年11月奈良にて開催した国際シンポジウム《中世における文化交流――対話から文化の生成へ》の成果論文集が、この度公益財団法人出光文化福祉財団と笹川日財団の助成を受けて、2020年6月26日に刊行されました。

『東西中世のさまざまな地平--フランスと日本の交差するまなざし』
著者:江川溫/マルク・スミス/田邉めぐみ/ハンノ・ウェイスマン(共編)
出版社:知泉書館
ISBN:9784862853172
定価:本体5,000円+税

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